on that occasion 散文 夢の途中

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散文

過去に書いた作品をいくつか掲載しています。

夢の途中

僕が出版社で働いていた頃。
ひとり中途採用で入社してきた後輩がいました。
僕より4歳だったかな。年下で。
あ。男の子です。

あの時は、ITバブルの頃。
結構うさんくさいビジネスがたくさんありました。
前職は、携帯電話のなんちゃらうんぬん。
ま。よく覚えていません。

その子は半年くらいで辞めました。
ま。でも。辞めても時々連絡は取り合っていました。
オリックスファンでね。
僕は当時近鉄ファン。
だから、神戸の球場まで野球を観にいったりとか。

ある日。その子から電話がかかってきました。
「今朝、かあさんが死にました」
「え?」

その子は母子家庭です。
近所に軽度の認知症を患ったばあちゃんが住んでいます。
ばあちゃんの介護をせなあかんので、近くに引っ越してきたようです。

転職した彼の仕事先は鉄道会社でね。
彼は鉄道マンになりたかったそうで。
ケーブルカーって言うんですか?
それを運営しているところに入ったとのこと。
だから、夜勤があって、その日は当直明けだったらしい。

朝、アパートに帰ってきたら
おかあさんがこたつにもたれかかって、亡くなっていた。
もともと持病をもっていたそうで。

彼は悲しむ暇もなく。
お葬式やなんやらでバタバタ。

「俺になんかできることないか?」
…何もないわな。
とにかく。会社の何人かに連絡をとって
せめて香典だけでも、たくさん集まるように。

お葬式とかいったん終わって。
その時、僕は遅くなったけど、香典を渡しに彼の家にいきました。
大阪の下町でね。

南海電車のあまり名前も聞かない支線に乗って
彼が生まれ育った町をぶらぶら。
まるで昭和30年代の日本って感じのところ。
夕焼けが懐かしかった。
そこで、ふたりでたこ焼きを食べて。

「これからどうしようと思ってんの?」
「ばあちゃんの世話は、手配できました」
「そっか。ちょっと安心できるな」

「俺とオカンね。
 いつか、神戸の景色がいいところに住もうねってゆーてたんですわ。
 俺、だから、鉄道会社に応募してね。ばあちゃん死んだら、二人で引っ越そうかって」

「あ。●●先輩。いつか俺達家族のことを小説にしてください。
 こんな親子もあったってこと」
「そやな。また取材させてよ。書ける時がきたら」

今日もこれから出かけます。
ちょっと朝、ボーッとしてて。
昔のことを思い出しました。
さて。今日も頑張るか。